日本妄想むかしばなし

*


 タヌキにキツネにヤモリですか・・・
 こりゃ,難しい・・・


  そりゃぁ,昔々のこと。
  あるところに,ゴロ吉どんという若者が暮らしとったと。
  ゴロ吉どんは,そりゃ働きもんで,おまけに,誰に対しても親切でやさしい人じゃったそうな。
  じゃけど,嫁もおらんし,その年は,日照り続きで,田んぼも畑も実りがイマイチじゃったんで,寂しい日々を過ごしておった。
  秋が冬に変わる,そんなある日のこと,ゴロ吉どんが裏山から木の実をどっさりと拾うて帰ってきた。

  ゴロ吉:こんなに木の実やきのこが見つかったで。米もなくなったけんど,芋がまだ,少し残ってるな・・・この木の実とキノコでしばらくは息がつくわい。

  そんなことを考えながら,夕食を終え,少し早いが・・・寝床に入った。
  すると,しばらくすると。

  トントントン・・・

  と戸を叩く音がする。
  誰じゃいな,こんな時間に,と戸をあけてみるが,誰もいない。
  が,よく見ると,タヌキが,ちょこんと座っている。

  ゴロ吉:ありゃ,タヌキじゃないか。こんな時間にどうしたんじゃ。
  子 狸:実は・・・私,この秋,畑を荒らしたタヌキの息子でございます。
      その節は,ずいぶんとご迷惑をおかけしたことと・・・
  ゴロ吉:ほう,あの畑あらしは,おまえの親ダヌキだったんかい。
  子 狸:そんなご迷惑をおかけしたおかげで,私,このように育つことが出来ました。
  ゴロ吉:ええ,毛並みの立派なタヌキになったな。
      いやなに,タヌキ汁にしたら,美味かろうが,心配せんでもええ。そんなつもりはないからな。
      それで,いったいどうしたというのじゃ。
  子 狸:実は・・・言いにくいことではございますが,あれから,私の父ダヌキ,村の狩人の罠にかかり,絶命いたしました。
      それからというもの,母ダヌキが女手ひとつで私を育ててくれたのですが,そろそろ私も巣立ちの時。
      お恥ずかしい事ながら,見初めた娘タヌキとの間に子どもが生まれたばかり。
      そのおりもおり,まだまだ,タヌキ仲間では,若年増の母タヌキではございますが,毎日の疲れからか,寝込んでしまいまいた。
      日々の食事もままならず,そりゃ,私ががんばればいいのでございます。
      が,先ほども言いましたように,私も所帯を持ったばかりで,母には,十分なことが出来ません。
      そこで,思い出したのが,ゴロ吉さまでございます。
      あちこちの畑を,荒らしまわりましたが,他の畑では,すぐに罠を仕掛けられましたのに・・・
      ゴロ吉さまは,「わしらもケモノも同じ生き物,お天道様の恵みで生きてるんじゃ」と,罠も仕掛けずにいたそうな。
      そのおかげで,私も成長したわけでございます。
      ご恩は決して忘れるものではございませんが,そのゴロ吉さまのおやさしさを思い出し,性懲りもなくまかり出ました。
      母タヌキは,病いを患った上に,飢えに苦しんでおります。なにとぞ,なにとぞ,なにとぞ,御慈悲を・・・

  と,タヌキが必死の面持ちで語るのを聞き,ゴロ吉どん,僅かに残っていた芋と採ってきたばかりの木の実を分けてやる。
  平身低頭で,タヌキがそれらを持ち帰ったそうな。
  それから数日たったある夜,また,戸を叩く音がする・・・

  旅の女:すみません,道に迷った旅の者。一夜,夜露だけしのげさせていただければ・・・

  見ると,若いとはいえないが,なんとも小粋で美しい旅の女。
  ふだんは自分が入る布団をその女に与え,自分は,筵をかぶって寝てしまうゴロ吉。

  翌朝,起きてみると,なにやらいい匂いがする。
  なんと,タヌキそば。
  さては,昨夜の女が作ったのか・・・と見るが,女の姿はすでになく,土間の隅に,ソバの実が山のように積まれていた。

  ゴロ吉:さては,昨夜の女,例のタヌキであったか・・・

  数日して,また,夜中に,戸を叩く音がする。
  今度は,若いキツネ。
  その若キツネの語る話,あれ,先日のタヌキとよう似た話じゃわ,と思いながらも,同じように,最後の芋や木の実を与えると・・・
  また,数日すると,若い美女が,一夜の宿を・・・と戸を叩く。
  前と同じように,布団を貸し,しかし,さすがに,ドキドキしながら,寝付けぬまま朝方になり,まどろんだかと思うと,またしても,美味しそうな匂いで目が覚める。
  今度は,キツネうどんの用意が整ってい,土間には,小麦の山が出来ている。

  ゴロ吉どん,母タヌキの化けた旅の女や,キツネの化けた女の美しさに,ちょっと未練はあったが,なにはともあれ,食料の確保は出来た。
  これで,一冬は越せる・・・

  そんな矢先,またしても,戸を叩く者がある。

   女 :もうし,お頼み申します・・・
  ゴロ吉:なんや,今度は,ややこしいこと抜きかいな。一晩くらいなら,どうぞ・・・
   女 :いいえ,私,この家に,長年棲み暮らしておりますヤモリの化身。
      先日から,見ておりますと,タヌキやキツネに化かされておるのを拝見しておりますと,居たたまれなくなり,かような姿に身を窶し,参上いたしました。
      これから先,私が,あなたさまを一生お守りしますゆえ,なんのご心配もなさらぬよう・・・
  ゴロ吉:なんや,ヤモリに一生守られるんやったら,その前に,身も心も化かされて,狐狸ておけばよかった・・・


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