「晩秋」 特別企画

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ガコ坊 : ええお天気が続きまんなあ。

ゴロ爺 : ほんまやな。

ガコ坊 : せやけど,だんだん寒ぅなりましたなあ。

ゴロ爺 : そりゃ,もう霜月,11月やがな。

ガコ坊 : 霜月ですか・・・さすが,年寄りの言うことはちゃいま。

ゴロ爺 : 年寄りというヤツがあるかいな。おまはんと,ナンボも歳は,違やせんで。
    もっとも,おまはんは知らんやろが,昔の太陰暦では,睦月,如月,弥生,卯月,皐月,水無月,文月,葉月,長月,神無月,霜月,師走・・・と言うんやな。
    霜月ちゅうたら,11月のことじゃ。

ガコ坊 : へぇ,そうでしたんかいな。わたし,また,昔の冷蔵庫みたい霜がつくほど寒なったからかと・・・

ゴロ爺 : まあまあ,そんでもええわ。そろそろ霜の降りる頃やからな。

ガコ坊 : せやけど,11月は,まだ,そこまでは,寒うはない。

ゴロ爺 : 昔の太陰暦の頃の話やから,霜月と言えば,今でいう12月頃になるかいな。

ガコ坊 : ほんなら,1月はなんちゅうんです。

ゴロ爺 : 今も言うたがな。睦月。むつましづき,とも言うな。

ガコ坊 : 2月は?

ゴロ爺 : 如月じゃ。「衣更着」 とも言うが,寒いから衣を重ねて着ることから,こういうんじゃな。

ガコ坊 : へぇ,もの知りでんな,ご隠居は・・・三月と五月は知ってまっせ。「弥生」に「皐月」。

ゴロ爺 : よう知ってるな。

ガコ坊 : そりゃ,「弥生賞」に「皐月賞」・・・

ゴロ爺 : 競馬やがな。

ガコ坊 : せやけど,六月ちゅうたら,梅雨の頃でっしゃろ。せやのに,なんで,「水無月」 言いますの。

ゴロ爺 : 水が無い月と書くが,ホンマは,「水の月」 と言うんじゃな。その「の」が,文字にした時に,「無い」に変わってしまったんじゃ。

ガコ坊 : オー・ノー!

ゴロ爺 : しょうもない返事はよろしい。

ガコ坊 : ほんなら,「神無月」は,「神の月」ですかい?

ゴロ爺 : まあ,ホンマはそうなんじゃろうが,俗説では,違うな。
    そこいらの諸国の神さんがみんな出雲に行く月なんじゃな。それで,ここらは,「神無月」と言う。
    しかし,出雲では,「神有月」と言うんじゃ。

ガコ坊 : ははあ,神さんの総会でっか。

ゴロ爺 : まあまあ,そんなところかいな。
    そんなことは,どうでもええ。なんか用かいな。

ガコ坊 : なぬかようか(七日,八日),九日(ここのか),十日(とおか)・・・

ゴロ爺 : しょもないこと言うてんと,用があるんやったら,早よ言いなされ。

ガコ坊 : それそれ,ひとつお伺いしたいんですけど・・・秋になると,モミジやなんかの葉っぱが赤くなりますな。
    あれ,なんでですねん。
    誰ぞ,水のかわりに酒でもかけたんでっしゃろか。

ゴロ爺 : そんなアホなことするヤツはおらへん。

ガコ坊 : それが,おますねん。ここに。せやけど,あきまへんで。木に酒,飲ましたら,茶色にはなりましたけど,赤ならん。

ゴロ爺 : そりゃ,枯れたんとちゃうか?

ガコ坊 : 植木屋もそんなこと言うてました。

ゴロ爺 : ホンマ,アホなことばっかりしとぉるな。
    で,なんやて,モミジがなんで赤くなるか,てか?
    教えたろ。と言うても,難しいこと言うても,わからんわな。
    そう,そう,いっぺん,そこの障子,開けてみなはれ。

ガコ坊 : こうでっか・・・わあ,けっこうなお庭ですな。

ゴロ爺 : ほう,おまはんに,「庭」 の良し悪しがわかるか。

ガコ坊 : そりゃ,あそこの大きな石がムニャムニャ・・・
    ほんで,そのまわりの,あれはモミジでんな,赤くなってますな。それで,ムニャムニャ・・・

ゴロ爺 : ムニャムニャ,て,なんや,それ。

ガコ坊 : いえ,それ,ですか? 死んだ爺さんの遺言でんねん。
    植木屋してた爺さんが,よう言うてました。
    どこぞの家へ言って,庭を見せられたら,まずは,「けっこうなお庭ですな」 と褒めたらええ。
    庭を自慢するようなヤツにロクなヤツはおらん。
    テキトーに石やとか,植木をムニャムニャ言うて,褒めたら,うまくいきゃ,酒の一杯でも飲ましてくれるで・・・と。
    そろそろ,お酒を一杯・・・

ゴロ爺 : 誰が,飲ますか。
    それより,あのモミジがなんで赤くなるのか,聞きたないんかい。

ガコ坊 : そうでした。それ先,聞かな,酒が飲めん。

ゴロ爺 : ホンマにおまはんは,しゃあないなあ。
    さいぜんも言うたけど,もう11月やな。

ガコ坊 : そうだす。

ゴロ爺 : 秋もここまで深まると,なんと言うか知ってるか?
    晩秋と言うのやな。

ガコ坊 : へえへえ,聞いたことがあります。

ゴロ爺 : もう,わかるやろ?

ガコ坊 : ・・・・?

ゴロ爺 : わからんかえ? 播州といえば,赤穂やないか。

ガコ坊 : 播州赤穂浪士。

ゴロ爺 : 晩秋 (晩秋) は,赤う (赤穂) なる。

ガコ坊 : なーるほど! さすが,ご隠居。
    どうりで,赤うなった樹木の真ん中に,大石がおます。


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